「ばーちゃん。桃は?」

 「何だ冬獅郎、前から言ってただろ?桃は今日入学テストなんだよ」

 「……聞いてねぇよ!」




俺は、


いつまでも、この時間を幸せに過ごせればそれでいい。


そう、思っていた。











  君を守る、そのために。











死神なんか、キライだった。
少し能力が高いからって、あいつらばっかりいい暮らしをしていて。

それに比べて、俺は、ただの魂で。
桃だって、たしかにただの魂で。

なのに。

 「一人でぬけがけかよ…」

一人してでっかくなろうとしていた桃が羨ましかったし、憎たらしかった。



 「シロちゃん、シロちゃん、私、合格した!一発合格だよ!」

試験が終って、1週間ぐらいして、桃が嬉しそうに報告してきた。

 「ああ、そう」

 「怒ってるの?シロちゃん」

 「怒ってねぇ」

 「そう? あー、楽しみ!早く春にならないかなぁ!」

いつしか、それは桃の口癖となっていた。


まだ、その時の俺と桃の間には何一つとして差はなかったのに、
俺は、桃がすごいヤツに見えて仕方がなかった。



それからも、いつもと何も変わらない生活が続いた。
ばーちゃんはいつもみたいに優しいし、
俺はいつも通りだし、
桃は、一人でいつも浮かれていたし。


 「あれ、シロちゃん、ナス食べないの?」

 「…うるせ。あと、シロちゃんっての、やめろ」

 「どーしたの?急に」


悔しかった。
いつも通りの会話なのに。
いつも通りの俺なのに。
今までずっと守っていた桃に、見下された気がした。


桃が喜んでいるのは、桃が幸せな証拠だから、俺も嬉しいはずなのに。
 
桃が死神になるっていうことは、いつしか桃が、俺より強くなるっていうことで。

つまり、いつしか俺が、守る存在から、守られる存在になりかねないっていうこと。




恐い。
音を立てて、俺の中の幸せが崩れていった。





そして、春がやってきた。

 「それじゃ、行ってくるね シロちゃん!」

 「シロちゃんってのやめろ!」

 「あたしと同じトコに入学できるようになったら、苗字で呼んであげる!」

 「ふざけんな! 誰が死神の学校なんか入るかよっ!!」

 「寮に入っても、休みになったら遊びに来てあげるからねー!!」

 「二度ともどってくんな、寝ションベン桃〜〜〜」


きっと、次に戻ってくる時は、俺より強くなってる。

そんなの、いやだ。











 「ばーちゃん。休みまで、あと何日だ?」

 「……冬獅郎。桃が出かけてから、まだ1ヶ月も経ってないよ」

ばーちゃんは、洗濯物を干しながら答える。

 「そんなこと言ったってよ…」


一日一日が、長くって長くってしようがないんだ。

桃がいないと、毎日が味気なくって、空気圧に押しつぶされそうになる。


 「一日中ダラダラしてるからだよ、まったく…。ヒマなら、代わりに洗濯物干しとくれ」

 「ああ、わかった」

ばーちゃんと、交代した。

ばーちゃんは、縁側に座って、静かにお茶をすする。

俺は、洗濯物の残りを干す。

 「桃がいないと、随分静かなもんだねぇ」

 ばーちゃんが、しみじみと喋る声で、俺は悲しくなる。

 「…あんなヤツ、いなくなってせいせいする」

洗濯物を、破れるほど強くひっぱる。

 「よく言うよ。桃がいなくなって、あんなに寂しそうにしてたのに」

 「………」

言い返せない。

 「まったくしょうがないねぇ………」

ばーちゃんは一息ついた。

 「冬獅郎、死神になったらどうだい?」

 「ハァッ!?」

思わず、手にもっていた洗濯物を落とした。

 「な…何言ってんだよ、ばーちゃん!!そんないきなり…」

 「私だって、この先長くないだろうし…。」

ばーちゃんは、たんたんと語る。

 「考えてごらん、冬獅郎。ここにいても、年老いた私しかいない。でも、死神になれば、桃がいる。お前にとって、そっちの方がいいんじゃないかい?それに、桃にとっても」

 「何言ってんだ! 俺は、死神が嫌いなんだ。なんでわざわざ…」


 そう、死神なんて、キライだ。

 あいつらは、いつだっていい暮らしをしていて。

 あいつらは、俺達より、ずっと、身分も高い。

 大事な桃のことだって、奪いやがった。




 「冬獅郎が死神が嫌いなのはよく知ってるよ。だから私は思うんだけどね、…………」






そんなこと、今まで考える余裕もなかったし、

考えたことだってなかった。




 「…ばーちゃん」

 「さ、洗濯物干したら、中にはいって、さっさと勉強しな」



死神なんか、キライだ。

大事な桃のことを、奪っていったから。


でも、それ以外に方法はないと思った。






―――“死神になるため” じゃなくて、 “桃を守るため” 死神になればいいんじゃないか?





俺も、死神になってやる。




強くなった桃より、もっと強くなって、











 「……日番谷くん!」














桃を守る、そのために。
















 サイト開設おめでとうございます!
 ということで開設記念のお話にございます。
 ひつひなです。(注:日桃ではないですよ(笑))
 このあと日番谷くんは、思いも寄らない吉良君の出現に、色々腹を立てるのですが、
 まぁ、そんなことはどうでもよくってですね。
 少し前にジャンプに挟まってたジャンプINジャンプを読んで、触発されて、勢いで書いたものです(汗
 味気のない話ではありますが、是非、受け取って下さいませ。
 ではでは、これから、サイト運営頑張って下さい!応援しています。
  

 2004年11月 保科智紗  





  保科智紗様のサイトは閉鎖しました。







後ろ髪を引かれる思いでTOPに戻る