・・・驚いた。
今の心境を端的に表すに相応しい言葉だ。
定例の隊主会が長引き、隊舎に帰ったのが予定を大幅に過ぎた時間だった。
――・・・何に驚いたのかと言えばまずは釘をさしたとは言え松本の机が綺麗になっていたこと。
あの隊主会の前には雪崩を起こしそうな書類がうずたかく積まれていたのに、だ。
・・・そして、もう一つは・・・。
「雛森?」
「あ、日番谷くん、お帰り!」
「…なんでここにいるんだよ」
いるはずのない雛森の姿がここにあったこと・・・だ。
人づてに聞いた話ではあるが、今日、雛森は現世任務(といっても引率)だったはずで。
午後の仕事が始まるとほぼ同時に現世に行き、夜になってから帰ってくると聞いていた。
しかし、今は・・・就業時間を少しまわったくらいで、日もまだ完全には落ちていない。
「驚かせちゃった?」
「・・・別に・・・それよりお前、現世任務じゃなかったのか?」
「うん。でも予定より早く終わったから、もう仕事は無いの」
「・・・で、ここに来たってわけか・・・随分と気楽だな」
「でも、ちゃんと仕事はしてきたよ?日番谷くんは?」
「これだけ片付けたら終わりだ。どうせ暇なら茶でも煎れてくれ」
「人使い荒いなぁ・・・まぁ、煎れてはあげるけど」
「こういうのってさ、久しぶりだよね」
「・・・そうだな」
片付けも終わって、自分の仕事も終わり。
今は雛森と執務室に二人、妙にゆったりした時間を過ごしている。
一言も残さずに松本はどこへ行きやがった…と言いたいところだが・・・。
今の状況に不満は無いので、とりあえず黙認することにする。
「最近・・・どうなんだよ、仕事」
「え?仕事・・・うん、充実してるかな」
「そうか・・・・・・まぁ、憧れの藍染のすぐ下だからって言うんだろうけどな」
「日番谷くんにはお見通しだね」
・・・お見通し・・・か。 わからないはずがない・・・こいつは、雛森はいつもそうだ。
それこそ、俺が流魂街にいた頃からな。
いっつも幸せそうに笑って藍染の話をするから。
「わからねぇはずがねぇだろ」
「えっ!?」
「お前、いつも藍染、藍染ってうるせぇからな」
「そうかなぁ・・・?そういうつもりはなかったんだけど・・・」
こういうところも、雛森らしい。
結局、雛森の想いの全ては藍染に繋がるのではないかと時たま思ってしまう。
そして、その自覚のかけらも本人には無いところが、余計に俺を苛立たせる。
そして、こんな感情を抱く自分に苛立ってみたりする。
最終的に何の意味も無いことは知りながらも・・・。
「いいんじゃねぇの?理由がどうであれ楽しんでやってるならな」
「・・・だよね!あ、そういえばここに来た目的、忘れてた・・・」
「・・・なんだよ」
「これ、たくさん作っちゃったからおすそ分け!ほら、懐かしいでしょ?わらび餅」
「作った?ちゃんと食えるんだろうな?」
「失礼な!ちゃんと味見くらいしてます。一緒に食べようよ」
・・・本当に久しぶりなのかもしれない。
二人っきりで、こうやってのんびり時間を過ごす。
最近は、今までになく忙しかった。
会うのですら久しぶりなのではないかと思わせるくらいに。
「どうかな・・・味は」
「あ?・・・一応、食べられるんじゃねぇの」
長い付き合いだ…どうせ、憎まれ口の類だっていうのはわかっているだろう。
それこそ、もっと幼かった頃であれば素直じゃないだのと注意されたが。
最近では諦めたのかどうなのかは知らないが、別段何も言ってこなくなった。
それが、いいのか悪いのかは俺にもわからない。
「・・・冗談だ・・・結構、うまい」
「!?」
「・・・なんだよ、その、表情・・・」
「えっ・・・ごめん、ちょっと、驚いちゃって・・・日番谷くんが素直だったから・・・」
この程度で驚くのかよ・・・いい参考になったかもしれないな。
類い稀なる才がどうだとか、神童がどうだとか、史上最年少での隊長就任がどうだとか。
そんな風に噂されようが、褒められようが、結局俺は望むモノを手に入れられていない。
だいたい、天才だとか周りは言うが、努力をしてないわけではないのだ。
それこそ、望むモノを手に入れるために必死でもがいてはいあがって来た。
それなのに、この結果だというのなら、不意打ちの一つや二つ、許されるだろう。
「この程度で驚いてたら話にならねぇだろ」
「うっ・・・日番谷くんのイジワル・・・」
「・・・・・・たまには、いいじゃねぇか・・・・・・」
「え・・・?」
いつだって、何も好き好んでこんな憎まれ口をたたいてるわけではない。
悟られたくはない、悟らせたくはないからひた隠すための手段だ・・・言ってみれば。
・・・そして、一進一退の肉親を想うような感情だと自分に言い聞かせるため。
憧れ、敬愛する上司を想っていても別に自分には関係ないと言い聞かせるため。
「別に・・・好きでこんな風になったんじゃねぇっての・・・」
ようは、昔から、ガキの頃から惹かれていたというわけで。
時が経つにつれ、形は変わったものの、根本は全く変わっていないのだ。
この・・・おっちょこちょいでいつまでもどこかしら子供っぽい部分を残す幼馴染みに。
「もう・・・驚いたとか言って、変な声・・・あげるなよ」
「??」
「俺は疲れた・・・少し、膝、貸せ・・・」
「っ・・・!」
俺は弱い・・・こいつにだけには多分敵わない・・・一生。
それでもいい、そんな風に思ってみる。
**あとがき**
日雛じゃなくなった・・・日→雛になってしまった・・・。
私は結構好きなんですけど。日→雛って。
雛森はもうこの際どこまでも鈍感でいいと思ってるんで。
(ただ、あの藍染に心酔してるのはどうかと思うけど・・・)
こんなんで気に入ってもらえるのか不安ですが、空中楼閣さまの20000hitのお祝いに。
おめでとうございますの気持ちをこめて。
ありがとうございます!!!
20000Hitを忘れずに居てくださるなんて・・・(感涙
しかもひっつーかわえぇ・・・(鼻血
これからもよろしくお願いします。
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