ここだけの話、俺は結構雛森との身長差を気にしている。

 だから、今の俺の目標は『雛森より背が高くなること』だ。



複雑な贈り物



 サク、サク、サク。

 足元の落ち葉が軽い音を立てる。

 待ち合わせ場所に着いて足を止める。

 近くの木にもたれかかって、まばらに雲が浮かぶ空を眺める。

 「ばあちゃん、元気かな・・・」

 一人呟き、目を閉じる。

 瞼の裏にあるのは、世話になった記憶ばかりだ。

 そのまま数分が過ぎ、時と共に、雲が流れていく。


 サクサクサクサクサク・・・

 落ち葉を踏みしだく音が聞こえ、ゆっくりと目を開ける。

 「遅いぞ、雛森」

 駆け寄ってきた雛森を見やり、これみよがしにため息をつく。

 頬を上気させ、息を切らした雛森が、口をとがらせる。

 「だって、おばあちゃんにお土産買ってたんだもん」

 ほら、と言って持ってきた包みを開ける。

 「大体、そんなに遅れてないでしょ」

 「あー、俺が悪かった。早く行こうぜ」

 片手であしらい、スタスタと歩き出す。

 まだ呼吸の荒い雛森が、慌てて後から追ってくる。

 「待ってよ、もう」

 追いついた雛森が腕を掴む。

 内心ドキリとするが、平然とした風を装い、歩き続ける。

 サク、サク、サク、サク、サク・・・サァッ

 冷たい風が、落ち葉を転がし、袖をはためかせる。

 「うぅ・・寒いー。日番谷くんは寒くない?」

 「別に。冬生まれは寒さに強いって言うしな」

 そんなモンだろ、と言うように、肩をすくめる。

 「冬生まれなんだぁ・・・ねぇ、日番谷くんの誕生日っていつなの?」

 気になったのか、興味津々といった風に下からのぞき込んでくる。

 期待のこもった声は、いつもより少しトーンが高い。

 まじまじと見つめてくる様子は、まるで子犬か何かのようだ。

 その顔を見て、俺はちょっと意地悪をしてやろうと思った。

 「さぁな」

 素っ気なく言い返すと、雛森が頬を膨らませる。

 「日番谷くんのケチ!」

 そっぽを向いてスネてしまった雛森は、とても残念そうだ。

 俺の気が変わるのを待っているらしく、時々こちらを窺っている。

 しばらく膠着状態が続くが、その内雛森の表情が、諦めに変わっていく。

 その様子に負けた俺は、しかめ面で言う。

 「冗談だよ。教えてやるから機嫌直せ」

 「本当!?いつなの?」

 パッと表情を明るくして、雛森がこちらに向き直る。

 「12月20日」

 投げやりに言って、雛森の方を盗み見る。

 雛森は、少し考え込むと、一瞬驚いた顔をして、それからすぐに、相好を崩す。

 「じゃあ、今日が誕生日なんだね。おめでとう!」

 そう言って、俺の頭に手を置くと、くしゃりと髪をかき回す。

 その後、何かに気づいて、困ったような表情になる。

 「プレゼント、用意してないんだけど・・」

 「そんなモン、別にいい」

 流石に、お前と一緒にいられるなら、とは言えなかったが。

 「でも・・・」

 そこまで言って、雛森は口をつぐむ。

   そして、再び少し考え込むと、何かを思いついたように、ポン、と手を叩き、満面の笑みを浮かべた。

 本当に、よく動き、くるくると表情の変わるやつだ。

 おかげで、見ていて退屈しないのだが。

 思わず、顔をほころばせると、雛森がすかさず指を指す。

 「日番谷くんが笑ってるー。珍しいね」

 「うるせーな」

 勢いに任せて、八つ当たり気味に、雛森の頬を引っ張る。

 「ひふぁい、ひふぁい、ははひふぇー」

 ・・・・・。

 なんともアホだが、一応言いたいことは分かるので、離してやる。

 「ひどーい、珍しいね、って言っただけなのにー」

 そう言いながら、何故か俺の方に、にじり寄ってくる。

 「な、なんだよ・・・」

 反射的に、たじろいで一歩後退る。

 ふいに雛森が、ふわりと微笑む。

 そして、背伸びすることもなく、膝を折ることもなく、顔を近づける。

 そのまま、俺の額に、軽く唇が触れた。

 「っ・・・・・」

 絶句して、俺はその場で固まる。

 数秒経って、額に手を当ててみる。

 自分の動作が、酷く緩慢に感じた。

 「誕生日プレゼントの代わり!」

 無邪気に笑って、くるりと身を翻した雛森は、半分跳ねるように、上機嫌で駆けていく。

 「早くしないと、おいてくよー」

 弾んだ声で言い、橋の向こうから手を振る雛森。

 心なしか、足取りが、先程より軽いようだ。

 「あ、ああ」

 まだ現実に戻り切れていない俺は、生返事をする。

 「畜生・・・」

 ふてくされて、転がっていた小石を蹴る。

 勿論嬉しかったのだが、反面、悔しかったのも事実だ。

 どちらにせよ、ここまで取り乱すのは、相手が雛森だからだ。

 混ざった気持ちを整理しようと、大きく首を振る。

 そして、いつか雛森に、仕返しをしてやろうと決めた。




   だから、今の俺の目標は、『雛森の額にキスすること』だ。



   あとがき

   日番谷誕生日記念小説です。なんとか間に合ったー。

   時期としては、日番谷が真央霊術院に入学して最初の休みのイメージです。でないと、ばあちゃんがお空に旅立ってそうなので(爆

   はい、日番谷に勝手に目標立てさせてみました!でも達成できてません!未だにちっさいままです!!

   ・・・ま、優しく見守ってやりましょう(笑






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