「いいか、太陰。お前はいつも他人に迷惑をかけすぎだ。今日もまた・・・」

あーあ、また始まっちゃった。

今度は何時間で終わるかなぁ・・・






姫と騎士(仮)





薄暗い教室に、窓から西日が射し込んでいる。

今の季節はなかなか日が落ちないから、もう確実に5時を回っているだろう。

窓側の一番後ろの席に座った太陰は、ぼんやりと頬杖をついていた。

いつも元気な彼女らしくないのは、先刻白虎に怒られたからだ。

「はぁ・・・」

太陰は柄にもなく、疲れた様子で大きく溜息をついた。

彼に怒られた後は、とてつもなく疲れる。

それこそ、今のように、家に帰る気がなくなってしまうほどだ。

べたりと太陰が机に突っ伏すと、前の方からドアの開く音がした。

「やはりここか。帰るぞ、太陰」

教室に入ってきたのは、涼しげな瞳をした少年だった。

「玄武・・・誰のせいで先生の説教を受けたと思ってるの?」

うつぶせのまま太陰は不機嫌な声をあげた。

玄武、と呼ばれた少年は、間髪入れずに切り返す。

「自業自得だろう」

「・・・毎度毎度先生に連絡してるくせに」

ようやく顔を上げた太陰は、容赦ない玄武に恨みのこもった目を向ける。

「なら、暴れなければ良い」

「うっ」

根本的なところを突かれた太陰は、思わず言葉に詰まる。

「とにかく、帰るぞ」

再度玄武が呼びかけるが、太陰は全く聞いていない。

見ると、彼女は玄武の横で、百面相しながら暴れる理由を考えていた。

玄武は一瞬固まり、それから呆れ顔で太陰を眺める。

・・・白虎先生にこじつけの言い訳が通用するわけはないだろう。

彼は心の中で呟いたが、口には出さず、律儀に数分間黙って太陰を待った。

「そう!いつも校内に明るさを振りまいてるってことで・・・」

「寧ろ五月蠅い」

「じゃあ、白虎先生のダイエットに協力してるってことで」

「そこまで太っていないだろう」

「術の練習!」

「外でやれ」

「もう、何ならいいのよ!?」

「どれも良くない」

「・・・ッ」

こめかみに青筋を浮かべた後、太陰は踵を返して鞄をひったくるようにして掴む。

そして猛然と怒って乱暴にドアを開けた。

いきおいよく振り向くと、荷物を持ち直している玄武に向かって、半ば八つ当たり気味に怒鳴る。

「玄武、さっさと帰るわよ!」

「・・・・・」

一度は無視したことを言い返す矛盾に、腹立たしいやら呆れるやらで、

最早どうでも良くなってきた玄武はがっくりと肩を落とす。

「・・・いい心がけだな」

皮肉を込めて呟くと、太陰がまともに返す。

「ふっ、当然でしょ」

「・・・我は何のためにここへ来たのだ・・・?」

玄武が来なかったら、口答えをする気も起きなかったであろう太陰は、さらりと答えた。

「え、忘れ物取りに来たんじゃなかったの?」

「・・・もういい」

そうは言いながらも、その後もボケとツッコミの応酬を繰り返しつつ、

二人は家路につくのだった。







あとがき

あっはっはっはっは、節操ないですねー、私。

これはもう日常茶飯事だと思います。

白虎に捕まるのは玄武のせいだけど、元気を取り戻すのも玄武のおかげ。

うーん、おいしい。

暴走を止めるのもそれ以上怒られるのを防ぐため。一種の「愛」ってことで。






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