お前の瞳には何が映っているのだろう
お前の視界は何色に染まっているのだろう
crusade
ハンター試験2次試験会場から3次試験会場へ向かう飛行船の中。
ゴン、キルア、クラピカ、レオリオの4人は、ラウンジでくつろいでいた。
この後試験はどうなるだろうとか、他愛もない話をしていた時、
ふいにゴンが口を開いた。
「ねぇクラピカ」
「なんだ?」
「クラピカはハンター試験に来る前に何してたの?」
「武術の特訓ならやっていたが・・・」
「違うよ」
「え?」
「俺が聞きたいのは幻影旅団が襲ってくる前のこと」
ふっと一瞬あの記憶が頭をよぎった。
幸せだったあの頃の記憶。
「お、いーじゃんその話」
キルアが乗ってきた。
「聞かせろよ。時間ならたっぷりあるぜ」
レオリオも笑いながら言った。
(この3人なら話しても良さそうだな・・・)
「あまり楽しい話ではないのだが・・・まぁいいだろう。
あれは4年前の3月のことだ───」
あれは4年前の3月のことだ。
私は村の掟を破ってこっそり隣村との境界だった小さな川に行った───
「そうか、お前にもそんなこっそり冒険するような可愛い頃があったのか・・・」
「うるさいレオリオっ!私にも可愛らしい時期があったのだよ!」
「はいはいはい」
キルアが宥める。
「そんなことより続きは?」
コホン、と小さく咳払いをして話を続ける。
私は川に来た。
対岸に隣村が見えるが、人の気配は無かった。
何かあるかもしれない、と少し期待していたのだが、
別に変わったことはなかったので集落に帰ろうとすると、小さく何かが聞こえた。
「───て」
人の声の様だった。
ふっと後ろを振り返ると、
川の向こう側に私と同じ位の歳の少女がいて、こっちを見ている。
「待・・・・・・って!」
そう言うと、少女は靴を脱いで裾の長いスカートを持ち上げながら
こちら側へ川を渡って来た。
「お、おいっこっちに来てはいけないだろう!」
少女は私の忠告を聞くことなくこちら側にやって来てしまった。
「やっと見つけた・・・」
私は彼女の言っている意味がわからなかった。
「お前は隣村から来たのだろう?両親に見つかったら大変なのでは───」
「親はいないわ」
「もしかして───」
「ええ。あなたの村との戦いに巻き込まれて死んだの」
私の村と彼女の村はことあることに聖戦″と称して衝突を繰り返して来たのだった。
「すまない・・・好ましくないことを聞いてしまったな…」
「ううん・・・いいの。あなたは悪くないから」
彼女は私に笑顔を見せてくれたのだが、その目はどこか寂しげだった。
「ところで、『やっと見つけた』とは?」
「あ、あれは・・・私、友達がいなかったから・・・
あなたを見つけて本当に嬉しかったの」
「そうか・・・でも川を渡って来るのはとても危険だぞ?見つかったら何をされるか・・・」
「お願い!時々会ってくれる?」
「え・・・」
「一週間に一度でいいの」
掟を守らなければいけないということが頭の隅にほんの少しちらついていた。
しかし、この少女のことが気になるし、隣村のことも知りたかった。
「わかった・・・十分気を付けてくれ・・・」
「ありがとう・・・そうだ、私の名前はルナ。あなたは?」
「クラピカだ」
こうして私とルナの火曜日の会合は始まった───
「なぁ・・・それって世間一般では恋って言うんじゃねーか?」
レオリオが口を挟んできた。
「まさかっ!私はルナに頼まれたから毎週火曜日に会っていただけっ───」
「でもルナさんに会うのは楽しみだったんでしょ?(にやり)」
「キルアっ!全くもってそんな感情は抱いていなかったのだよ!」
「「ほんとかなぁ?」」
「うるさいっ」
「クラピカ少し顔赤くないか?」
「あ、ほんとだ」
「ねーねーそんなことより続きは?」
ゴンがじれったそうに言った。
「もういいなっ?!続き行くぞ!」
ルナと私は雨が降らないかぎり毎週火曜日に会っていた。
ルナはたくさんのことを教えてくれた。
隣村にはジェイル族が住んでいること、
彼女はクルタ族とジェイル族のハーフであること、
その為に彼女は村の中で迫害されていること、
そしてジェイル族は興奮すると瞳が美しい蒼色に変化すること───
「じゃあお前の瞳は───」
「わからないの・・・鏡を見るのが怖くて・・・」
「知らなくていい・・・こんな体質なんて無い方がいいのだよ・・・」
「その為にクルタとジェイルはずっと争ってきたんだもの・・・
それを聖戦″だなんて・・・」
「対立する者を討伐しようとするのは人間の本能だからな・・・
これから先聖戦″が起こらないよう祈るしかないのだよ・・・」
しかし、私とルナの願いも虚しく過ちは繰り返された。
川を挟んで戦いは繰り広げられ、双方に多数の犠牲がでた。
私は祈るしかなかった。
これ以上苦しむ人が増えないようにと───
そんな日が続いたある夜。
私は外のざわめきで目が覚めた。
あわてて表へ出てみると、焦げたような異臭が鼻をついた。火事のようだ。
しかし辺りを見渡してみてもどこにも火の手が上がった家は見あたらない。
民衆が指さす方向に目をやると煌々と明るく燃える炎が視界に入った。
川の対岸だった。
ジェイルの村が燃えていた。
即座に想いが駆け巡った。
ルナは!?
川は火傷を負った眼球の無い死体で埋め尽くされていた。
その中から真っ黒になった何かが駆け出てきた。
それはよろけながら私の所に来て消え入りそうな声を発した。
「クラ・・・ピ・・・カァ・・・」
「ルナ!!」
すっと月の光が射した。
彼女の涙がこぼれ落ちる瞳は───
悲しいほどに美しい紫色だった。
「綺麗な眼だ・・・」
私の口から紡ぎ出された言葉は、心配りでも気遣いでもなく、これだった。
「・・・ィ・・・リョダン・・・」
「ルナっ!もっとはっきりと言ってはくれないか?!」
「…ゲンエイリョダン…」
「ゲンエイリョダンという者が村を襲ったのだな?!」
ルナは微かに頭を縦に動かした。
そして紫色の瞳は虚ろになっていき、
瞼を閉じると同時にその場に崩れるように倒れた。
私は泣くことが出来なかった。
私の中で悲しみよりも怒りの方が勝っていたから。
いや、私自身が悲しみを何処かに封じてしまったのかもしれない。
墨を流したような暗闇は、赤と交じり合い時の感覚を失わせた。
空が白みがかっても、ルナは動かなかった。
私もルナの側から動かなかった。
声を掛けてくる者もいなかったし、掛けるべき者もいなかった。
そしてまた暗い夜が来て、今度はクルタの村に「あいつら」が来た。
「あいつら」───ルナ曰く「ゲンエイリョダン」という者達は、
ジェイルの村と全く同じようにクルタの村を壊滅させた。
炎を放ち、建造物を端から端まで壊し、
緋色に染まった眼球を1つ残らず奪い、そして去っていった。
村の外れにいた私は「あいつら」に見つかることはなかった。
だが───
一度「ゲンエイリョダン」が近づいて来たことがあったのだが。
私はルナを置いて森の中に逃げてしまったのだ。
ルナの周りには数人の人影が見えた。
変わる変わるルナの瞳を覗き込んで、楽しそうに笑いながらナイフを取り出した。
「やめろ!!」
そう叫びたかった。
でも。
叫べなかった。
怖くて。
おぞましくて。
震えていることしか。
出来なかった。
「あいつら」は。
楽しそうに。
ルナの眼球をくり貫いて。
去っていった。
守れなかった───
私はルナの所に駆け寄った。
あの美しい紫苑の様な眼はなく、暗い空洞があるだけだった。
やはりこの時も、泣くことはなかった。
私は彼女を埋葬しようと抱き抱えた。
細い彼女の身体は、驚く程に軽かった。
「───?」
彼女の長い髪の中で、何かが光った気がした。
よく見ると、それは一対のイヤリングだった。
彼女の瞳と同じ、紫苑色のアメジストで作られた小さなイヤリング。
安っぽい輝きでは決してない、気品に溢れた優しい煌めき。
そう、ルナのような。
私はルナの耳から片方だけそっとイヤリングを外し、自らの左耳に付けた。
(ルナ、お前を守れなかった私を許してくれるか?)
ルナは答えない。
頬を涙が伝っていった。
初めて本気で泣いた気がした。
その時決めた。
緋の眼を全て取り返すと。
そして、紫苑色の眼も。
ハンター試験に向けて武術の特訓を始めたのは、その半年後だった。
―――――
全て話してしまった。
出来れば知られたくなかったのだが。
「なんかすごい話聞いたってゆーか・・・」
「お前すげー過去持ってたんだな・・・」
「緋の眼もルナさんの眼も取り戻せるといいね!」
答えられない。
息苦しい。
「おい!クラピカ大丈夫か?!」
「顔色悪いよ?」
「大・・・丈夫だ・・・」
「平気な訳ないでしょ!」
「・・・少し休む」
そう言って私は自室に戻った。
クラピカがラウンジから出たのを見届けた3人は、何も話さなかった。
いや、話せなかった。
しばらくしてからキルアが口を開いた。
「なぁ・・・俺達相当ヤバいこと聞いたんじゃないか?」
「うん・・・」
「相当ヤバいな・・・」
3人の間に気まずい雰囲気が流れている中、
クラピカはすっきりした気分で安らかに眠っていた。
アトガキ
黒背景再来(笑)
最早レオクラじゃなくなってしまいました…
さて、今回はクラピカの過去話だったのですが。
いかがだったでしょうか。
ほんの少し悲恋物にしてみました。
「crusade」は、話の中に何度か出てきた「聖戦」という意味です。
・・・ついにタイトル揃え終了(頭文字cは続けます)。
write with 眞色